2018.03.02~03.05

来週には引越し。
引越しというのはもっと大変なものかと思ったけれど、物件の審査が通ったのかどうなのか、その結果をやきもき待つしかないという時期がなによりも心労が大きく、そのあとはやることは明確だしやれば終わるのでずいぶんと気楽だ。

ぼんやりと決まりきっていないこともあるにはあり、それは少し落ち着かないけれどそれは楽しいことがもっと楽しくなるかならないかという話なのでそわそわこそすれぐったりはしない。

まだ奥さんが奥さんになる前から、2年と半年ほど一緒に暮らした部屋はいま段ボールの占めるところが多くなってきて、だんだんと生活感が失われていく。
かつてセンチメンタル大魔神とおそれられた僕であるが、ふしぎと感慨もなにもない。
奥さんと離ればなれになるのであれば泣いてさみしがるけれどもそうではないし。
奥さんと考え決めたことであればたいていのことはケロリとしていられるんだろうなと思う。
変な言い方だけれども、意思決定を自分でしたという実感がまるでない。
かといって奥さんの意志に任せたかというとそうでもない。
これはもう二人の意志の総合というようなものが決めていたとしか言えない。
結婚も含めて「僕はこう思うのですがどうでしょうか」「よいのではないでしょうか」「それではぜひやりましょう!」「やりましょう!」みたいな合意形成をした覚えがない。
いや、これはさすがに僕の記憶力の問題の気も大いにするけれど、とにかくどちらか一人の意志みたいなものがもう一方の意志にはたらきかけるというようなことをしてきた感覚が全くない。
いつだって意志と呼べるようなものはお互いのあいだにあるように感じている。
これはすごく面白いことだ。
そして僕らが最高であることをものすごく直球で伝える、最大級ののろけであるとも思う。
けれどもこればかりは、僕の実感だけで言い切れるものでもない。
これを読んだ奥さんは「いや、わたしたちはちゃんと合意形成のプロセスをしっかり踏んでるでしょ」なんて言われてしまうかもしれない。
そうだとしたら僕はわりと自己というものを奥さんの側に拡散させすぎているということなので、自立した大人としてけっこうやばいんじゃないか。

ある面でなにかを共有しているとはっきり断言できる間柄であれ、いつまでたっても奥さんは他人であるのだからほんとうのところはわかりっこないしわからないからこそこうやって好き勝手書けてしまう。書けてしまうからといって書いてしまうのはほんとうに失礼なことなのかもしれない。それでも喜んでくれるかもしれない、面白がってくれるかもしれない、そうでなくても顔をしかめられるのだって面白い。そんな気持ちで書いてしまう。
僕は奥さんを信頼しすぎているのかもしれない。
たぶんこれを公開するのは週明けで、これは金曜の夜に書いている。
金曜の分をもう書いてしまったのにまだおさまらなくてこれを書いているので、このへんでいったんやめにして、実際のところを奥さんに聞いてみようと思う。

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やっぱり奥さんには「いや、わたしたちはちゃんと合意形成のプロセスをしっかり踏んでるでしょ」と言われてしまった。
けれども考えてみればそれは当たり前のことで、お互いの合意形成のプロセスをきちんと踏んでいるからこそ振り返った時に「まるでふたりの意志としか言いようのない意思」の決定がなされるわけだ。
たぶん僕は先週言いたかったことは、合意に至るプロセスが「ない」ということではなく、そのプロセスの透明度が高いということだったのだと思う。
つまり先週の僕は合意形成という言葉を「一方が言うことを聞かせ、もう一方が言うことを聞く」関係性を指し示す言葉のようにつかっていたけれど、奥さんはちゃんと相互に考えを出し合い一緒に練り上げていく行為を指す言葉として使った。そして合意形成という言葉の使い方は奥さんのやり方のほうがしっくりくる。
僕はコミュニケーションを考えるとき、一緒に何かを形成していくというイメージをなにより大事にしたいと思っているのだけど、それはそうはいってもコミュニケーションというのは「一方が言うことを聞かせ、もう一方が言うことを聞く」ものだと諦めているからこそ生まれてくる注意なのではないか。
だからこそ先週の僕は一緒に何かを形成していくというコミュニケーションを褒めそやすために、その形成に欠かせない合意形成のプロセスを「ない」ものとして書くという取り違えを起こしたのではないか。

一緒に作り上げたものは、制作にかかわった特定の一人に帰属するものではない。
それにはその形成に関わったすべてのひとの名前が記されている。
皆でつくったものはみんなのものなのだ。
これは僕がお芝居を作るのが好きな理由とつながっていくんじゃないか。
そんなことからまたいろいろと考えたのだけど、それは奥さんに直接しゃべってしまったので今あらためてここに書くことはよしておく。