2020.09.03(1-p.237)

奥さんはもう半年近く在宅で仕事しているので、僕が休日の平日はいつも奥さんが仕事していることになる。いや、奥さんが他所で仕事しててもおなじことなのだけど、家にいるといるので、気になる。特に季節の変わり目は二人して具合が悪いから、せめて休みの僕が奥さんの負担を和らげてあげようと思うこともあるのだがきょうはどうしてもそうならず、この休みを自分のために使いたかった。僕は奥さんは仲良しというか二人でだいぶ寄り掛かりあって生きているので、気をつけていないとすぐ主語が「われわれ」になるが僕は奥さんとは他人なので、別の個体として生きていくべきだった。「われわれ」疲れというか、僕が勝手に気を回して疲れているだけなのだけど端的にひとりの時間が欲しかった。そういうわけで夕飯いらない宣言のもと、fuzkue に向かうことにした。

その前に奥さんの午前中の仕事にきりがついたころに駅前の焼肉屋さんにお昼を食べに行った。僕はすでに読むぞ〜というモードで、ちゃんと奥さんとのデートに挑めたか今となっては自信がないが、とにかくFGO でネロを召喚したいんだ、というようなことを熱く語ったような気がしている。奥さんは、へえ、とか言ったはずだ。焼肉は元気が出るのですごかった。奥さんはその店の七輪で甘いパンを焼いてアイスをのっけて食べる奴が食べたかったらしく、席につくなり真っ先にそれを注文した。甘味、のち肉だった。こういう自由奔放さを野暮というのかもしれない。自分の食べたいものを食べたい順番で食べたい偏りで食べることは野暮というのかもしれない。べつにそれでよかったが、そうやって皆が粋じゃなくたっていいじゃん、好きにやろうよ、と野暮を避けなくなったという事態をポピュリズムというのかもしれなかったが、皆っていったい誰のことだろう、誰のことのつもりなんだろう。

それで初台に向かった。電車の中では新宿を新宿のアーチャーとともに駆け抜けた。向こうで本をがっつり読むのだからいいのだ、という気持ちで存分に遊んだ。ガチャを回して、星4の者がきて調子に乗って深追いしたらあっという間に90個くらいの石が溶けた。

 

fuzkue は救いだった。かなり助かる、と思いながら深煎りのコーヒーとチーズケーキをちびちびぱくぱくしながら本をずーっと読んでいた。ポスト・スポーツ、ワインズバーグ・オハイオリバタリアニズム。いい時間で、夕方ごろ小学生男子の声変わり前の甲高い声がはしゃいでいた。それに呼応して何人かの声もはしゃいだ。彼らの弾んだ嬌声が遠ざかっていき、内容を聞き取ることが難しくなりただのノイズになりかけたころ、店内ではいちど静かに沈んでいた音楽が再び立ち上がってきた。その瞬間のよさったらなかった。

満足して帰り、駅から一緒に歩こうと奥さんに誘われたので夜道を一緒に歩く。奥さんのことばかり気にかけてるのに疲れてひとりで出かけていると、ああこの景色を奥さんが見たらどうだろうとか、fuzkue のチーズケーキをいつか食べてみて欲しいなとか、結局奥さんのことを考えていて、だから奥さんのことは奥さんがそこにいようがいまいが考えるもので、そのことを確認するためにも一人の時間が必要なんだと思った。そんなことを話して、奥さんはあまり興味がないようにてきとうな相槌を打った。