2020.03.10

つば付きの丸い帽子からこれも丸っこいつま先の靴に至るまで、学校指定のもので揃えた小さな人が、薄いピンクの傘を広げて電車に乗り込んでくる。半駅ぶんくらいそのまま傘を構えたその背中に重苦しい雲や白い靄を通過した光が射し込んでいる。車両が地下に入りかけたころ、ふと気がついたようにそっと傘を畳んで、端っこの席に腰かけて地面に着かない両足をぶらぶらさせていた。


昨晩は自覚もないままに足音が大きかったらしい。背中から苛立ちが立ち上っているようで怖かったとも言われた。まったくその気がなかったから驚いた。たしかに所作は雑だったかもしれない。満月らしく、たぶんそれだった。奥さんは気圧の微細な変化にも敏感で、世が世ならいい巫女になれた、と自任するほど天気をよく当てる。僕は僕で月の満ち欠けが体調によく反映される。オカルト夫婦。奥さんは自分のことを棚に上げて言うけど、と前置いて、自分に理解できない他人の体質の話はどうしても眉唾みたいな態度で聞いちゃうよねえ、と笑った。


それで湯あたりのようなだるさがあった。『寝ても覚めても』を読んでいる。