2020.09.14(1-p.292)

納品のため下北沢へ。Twitter をみるとアッと思い、衝動的にDM を送る。まっすぐ月日に向かい、こんにちは、と入る。きょうはこんにちは、と返ってくる。これだけでほっとする。ここ二回くらい応対してくれた、若い、まだ男の子というかんじの線の細いスタッフのときは挨拶が返ってこなくてしゅんとした。なんとなく最初で躓くと相手に対してコミュニケーションの回路が開かれていないような気がして手間取ってしまう。取り付く島はどこだ、というような。きょうの方はちゃんと通路が開かれている感じがしてうれしかった。それで納品し、ビールを注文する。面白かったです、と言っていただけて、わっ読んでくださったんですね、わー……、とまったく気の利いたことが言えないまま顔が赤くなるのを感じた。こういうときのリアクションの正解をだれか「同人誌しぐさ」みたいな感じでまとめておいてほしい。僕はそれに安易に乗っかる。外のベンチで飲むビールはおいしかった。気候はきのうくらいからぐんと過ごしやすくなって、長らくつけっぱなしだった自室のクーラーも止まった。とはいえまだ肌寒いわけでもなく、ちょうどよくビールがよく合う。 B&B に上がっていくとお返事があって、ぜひお会いしたいです、とこちらの特徴とこのままB&Bにいますので、というのを送り、ほろ酔い気分で棚を眺めていた。コーヒーの雑誌と、映画パンフの雑誌はTwitter で見ていて買うことを決めていた。ほかに知らない本を買いたい、と思い、絶賛納豆中だったので、高野秀行の帯文に惹かれ『地下世界をめぐる冒険』を買うことにした。すぐにお互いにわかり、はじめましてをする。僕はそそくさとレジに向かい、会計、のちまた月日に向かって二杯目のビール。外のテーブルで乾杯した。ネット上ではお互いにやりとりもしたけれど、こうしてお会いするのは初めて、という間柄で、しかもオンラインではなくこうして生身で相対するというのはずいぶん久しぶりのことで、あることないことふにゃふにゃお喋りした。楽しくうれしく喋り続けるうち、勢いが横滑りしてなんか自分が嫌味なやつになっている気がして、そういう言動をとっている気がして、すこし不安になった。すてきな本を作り出している者同士が初対面でするお喋りの想定問答とNG発言を「同人誌しぐさ」みたいな感じでまとめておいてほしい。僕はそれに安易に乗っかる。
 
そのままBOOKSHOP TRAVELLER にもご一緒して、移転後の店舗は初めてで、ぐっと格好良くなっていた。いいなあ、いいなあ、と棚をめぐり、いちばん奥の右手のスペースの棚で見覚えのある白い背を見つける。どくん、と胸が鳴る。落ち着いて確認すると、あった! それは長らく探していた「TO magazine」の創刊号だった。ずっと探していて、けれども絶版のようで、あきらめていたものだ。「TO magazine」の実物を初めて見つけたのはH.A.Bookstore に初めて行った時のことで、そこには二号以降がしっかり並んでいた。それでも、本当にある! と興奮し、ほかのラインナップも含め棚のほとんどがしっくりきて、だから今はしっくりきていないものも未知のしっくりなのだと信頼できるようないい棚で、それですっかりH.A.B が好きになった。きのうの寝付けない深夜、すやすやと寝息を立てる奥さんを起こさないように布団を頭までかぶって発光させたiPhone で読んだ松井さんのnote が静かに染みわたっていくような気持ちでいるこの日に、この本を見つけることができたというのは、まったくどうでもいい偶然であるからこそ、個人的にはなんだか大事なことのような気がした。
 
そのままおわかれし、僕はfuzkue へ。納豆に夢中になりながらキーマカレーをおいしくいただいた。昼間の二杯のビールが効いたようで──マスクをしていると自分の息で二倍酔っぱらうようだ──うとうとしてしまい、進みは遅かったが、fuzkue としての空間の強度は一層強くなっており、僕は初台のほうがしっくりくると前に来たときは思ったけれど、きょうはどっちも最高だな、という気持ちになれたのでうれしかった。どんどんよくなっている、というのはすごい。帰りも、ちょうど仕込みを始めたタイミングだったこともあって、会計の際、たぶん山口さんに、もしかして玉ねぎのにおいが気になっちゃいましたか、と静かに訊かれた。僕は確かにキッチンの前の席で、そこまで料理のにおいは漂ってくる。けれどもそれは全然気になるものではなくて、むしろ読書時間に刻まれる嗅覚からのいいアクセントになっていたのだけど、その場では、いえ全然気にならなかったですよ、としか応えられなくて、ほんとうは、そんなことにまで気を配り、より一層この空間の居心地をよくしようというその態度まじですごいっすね、最高です、『誰かの日記』の販売すごく楽しみにしてます、と言いたかった。