2019.12.15

『2666』を読んでいて、いよいよルシア・ベルリンの短編と混濁してきたのを感じたので、出かける際にリュックに詰めたのは『LOCUST vol.3』と吉田健一『旅の時間』だった。奥さんとお休みが合うとたいていは奥さんとのデートの日になる。今日もそうだった。とはいえ恵比寿で電車を降りて、シェイクシャックでおいしいハンバーガーを食べた後は、奥さんが用事に出かける二時間弱、僕はそのへんで本を読むことになっていた。さいきんはこうしてデートの最中に解散と合流を何回か繰り返すことで、同じ家から出かけてもデートの醍醐味である待ち合わせができるという発明がなされていた。そうして『LOCUST』が始められ、すでに既刊二冊も買おうという気持ちになっていた。僕の地元は十七時退勤社の橋本さんや、H.A.Bookstore の松井さんと同じ県にあり、そこからすると岐阜というのは週末に遊びに出かける庭、あるいは同級生がそこから高校まで通ってくる土地、であった。なので東からあるいは西から見た、未知の場所としての岐阜という視点にまず驚くことになる。樋口恭介を介して思い出す梶原拓の未来にわくわくし、小島信夫の『美濃』はやっぱり読まないと読みたい絶対好き、と思い、渋革まろん円空仏の微笑にtwitter の「いいね」を重ねそしてズラしていくのを追いながら、twitter の★が❤︎に変わったのはやはり決定的だった、などと考える。ハートマークの「いいね=LIKE」という内臓感覚による共感は、遥か彼方の星を贈る「お気に入り=Favorite」とはやはり異質のものなのだ。星は、身体を、情動を経由しない。二者のあいだの交感ではなく、遥か彼方の他者を介した三点でのやりとりだったのだ、みたいなこと。アマルフィターノのたわごとに近い。


奥さんと合流し、日比谷で「鹿島茂コレクション アール・デコの造本芸術」を見る。鹿島茂といえば僕は『デパートを発明した夫婦』で、最近出たプルーストの完読を目指すやつはどうも興味がわかないようだった。読んじゃったしな。読めば読めちゃうと思う。きれいな本はやっぱりきれいだった。銀座まで歩いてお茶する。それから再び解散し、それぞれのお買い物を済ませて帰る。僕はセーターを買った。奥さんを待つ間ソニーパークのベンチで『LOCUST』を読んでいた。吉田健一は開かれなかったが、十分に旅の時間が訪れていた。