2020.03.07

田原町でお座敷一箱古本市。古本市にかこつけて飽和しきった本棚の整理と『ZINE アカミミ 』の販売をしちゃおうという魂胆。中二階から三面をガラスに囲われた扉の開閉を眺めるともなしに眺めながら、堂々と書店の開店から閉店まで居座れるというのはいいな、と思う。来店の波がありありと分かり面白い。波が来て、凪が来る。それを小高いところから定点観測するのはNHKの「ドキュメント72時間」っぽいねと隣に座る奥さんと話す。


嬉しい人や友達がわざわざ訪ねてくれて楽しかった。約束もなしにふらっと会えるというのは大人になるとなかなかない。中学生までは近所のダイエーアピタに行けばだいたい誰かいた。多くの場合親と同伴だったからすこし気恥ずかしい、という自意識が透けて見えて僕はわざと母親にツンケンとする友人のことを心底ダサいと思った。僕ははたから見てもちゃんと仲のいいようにしていよう、せせこましいグループ内での見栄のために自分にとって大事なものをわざとぞんざいに扱うようなことはしまい、と思えば僕は年齢が二桁に届くか届かないかのころから決めていた。いま僕たちに会いに来てくれる人たちは、みんな自分の大事なものをちゃんと大事にできる人たちだ。気持ちがいい。だいたい皆階下の棚も丁寧に眺めて行って、真剣な顔で本を手にとって吟味していた。その横顔がとてもよかった。また会いたいから約束もしたいし、こうして会いに来てもらえる機会も作りたい。そして会いに行ける時は行きたいが、出不精なのでこっちから出かけることは少ない。少ないからこそこうして座って人を待つような遊びが好きだ。


閉店して、稲荷町ドトールで最後の方にきてくれた友達と三人でおしゃべり。非常に面白く、ひさびさにZINE を作るぞ、というわくわくが湧いてくる。二号もまだなのに三号が楽しみだ。


昼頃にきてくれた友達は『くらげが眠るまで』のDVDを持ってきてくれる。木皿泉の初期作で、イッセー尾形永作博美が夫婦を演じるシュチュエーションコメディ。セリフから演出まで『やっぱり猫が好き』をもちろん想起させられるこの作品は、イッセー尾形演じる「ノブくん」が自分の妻を「奥さん」と呼ぶことで僕らの中では有名だ。なぜ有名かというと貸してくれたその友達が教えてくれたからなのだけど、帰宅して奥さんとクスクス観ていたら、奥さんがポツリと言った。こうやって客観的に見ると、「奥さん」って呼ぶの、かなり変だね。そうだね。